『入相の鐘』を読む。
図書館の書架を見ていて、タイトルが気に入り借りたら、
大田南畝と滝沢馬琴が主人公の話でした。晩年を5話にしています。
直木賞受賞作家の星川清司さんの本です。文芸春秋から。
タイトルは南畝の辞世から取っています。
「入相」を大辞泉で見たら、日が山の端に入るころ。日の暮れるころ。
たそがれ時。夕暮れ。「入相の鐘」は晩鐘と。
私の好きな「朧月夜」の世界です。
菜の花畑に入り日薄れ 見渡す山の端霞深し
春風そよ吹く空を見れば 夕月かかりて匂い淡し
1)近ごろ掲げたとみえる屋根看板には、「御紙烟草入品々山東京伝見世」
とあって、売行はかなり盛んであるらしい。紙烟草入から値の張る
布烟草入、さらに「京伝張」と称して、刻印を打った烟管(きせる)を
も加え、他に薬なども売捌いている。
2)去年冬に千住駅酒家中屋六左衛門隠宅で行われた斗酒飲みくらべ会で、
松堪という男が酒9升1合のんだと伝えられているという。
(この話は以前、本で読んでます)
3)そのくせ京伝は下戸で酒が飲めなくて、酒を飲まずに上機嫌で酔った
ふりするのが上手かった。絵師北尾政演が、京伝であることも、
そのころ知ったのだ。
(先日見た、三井記念美術館での『熈代勝覧』も京伝作と推定されて
いました)
4)山東とは愛宕山の東に住居するゆえ山の東であって、京橋の近くで
あるゆえ京、そして通り名の伝蔵の伝、すなわち山東京伝。
(私が生れたのは愛宕山の西でした。近くに住んでいたんだ)
5)南畝の死に方は理想的でした。
4月6日に、お香を連れて葺屋町市村座の芝居を見物にいった。
戯場を出て芝居茶屋でひとやすみしていると、團十郎より先に尾上
菊五郎が御きげん伺いにきた。
夜になって淡路坂の家に帰ると、南畝は常のごとくお香と語らって
から寝に就いたが、あくる朝になると、「気分がわるい」と言った
ものの、比目魚(ひらめ)で茶漬めしを食べた。
そうした即事をくちずさんで片紙に書いていわく。
酔生将夢死
七十五居諸
有酒市 ○近
盤○比目魚
その夜は熟睡したけれど、ふたたび起床することがなかった。
南畝七十五年が終わった。
6)さながら死を予感したように、南畝の絶筆として伝えられたものが
大田家に残されていた。
ほとゝぎす鳴つるかた身はつ鰹 春と秋との入相のかね
7)南畝の息子定吉は、お役が勤まらず、南畝の書き物の綴じをしていた。
気をも病んでいたとか。兎角、エライ親を持つと…。


Comments